『失われた歌謡曲』

“My Lost Domestic Popular Songs”

株式会社小学館 発行

定価 1,500円+消費税

ISBN 4-09-385137-9

 

カバーデザイン 山口滋夫
カバーイラスト 前嶋昭人

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本文より……
●洋楽はダメよ
 学生時代、友人たちが洋楽の話をし始めると、僕は孤独だった。「ビートルズが良い」のはよく分かった。今でも幾つもの曲を思い出し、そのメロディに浸ることが出来る。
 が、ローリング・ストーンズになると、もう、駄目。分からない。超有名な例の歌のシャウトの部分くらいしか知らない。それも、「これって、ローリングズトーンズだったっけね……」と自信なげに確認するぐらいである。
 他の洋楽も聴けば思い出すにしても、それが誰の何という曲か、結びつかない。語るための「基礎知識」に欠けていたのだ。
 基礎知識がないと喫茶店での話でも恥をかく。「そんなことも知らないのかよ」と言われたくないから、黙っている。黙っていると、どんどん取り残される。しかし、邦楽……というか、日本の歌謡曲になると、事情は一変する。
 特別ファンでもなかった歌手、どころか、嫌いだった歌手の歌詞さえ3番まで歌えてしまうことがよくあるし、ヒットした曲なら、流行った年の季節から作詞作曲者まで、結構正確に思い出せる。
 理由は単純。テレビだ、テレビのせいだ。
 単純だが深い。……底なしに深い。
      〈中 略〉
 出来るなら、昔に戻ってFMを聴いて洋楽に浸り、基礎知識を身につけ、片岡義男や村上春樹の小説に出てくるようなお洒落な会話をしてみたいし、書いてもみたい。
 軟弱な音楽に、「ロックじゃねえよ」と毒づいてみたい。
 来日したアーティストに、「あなたの音楽が僕を作ったんですう」とか言って、大げさに握手してみたい。ジャズ喫茶に入り浸って、厭世的な顔でまぶしそうにタバコでもふかしてみたい。
 ああ……だが、青春はやり直せない。タバコも吸ったことがない。
 振り返れば、テレビという電気箱からモノラルで奏てられた歌謡曲に塗りたくられた幼年期・少年期・青春期が、自分の体内にある。ドメスティック歌謡曲の毒素が、この身体中に染みついているのだ!